東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1937号 判決 1955年2月17日
控訴人 桑原豊作
被控訴人 中央林業企業組合 外三名
主文
原判決を取消す。
被控訴人等の申立を棄却する。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。
事実
控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は右控訴を棄却するとの判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は控訴代理人において、(一)本件仮処分命令は本件被控訴人等四名の外訴外三輪磯治及び鶴野弁太郎に対してもなされたものであるところ、原判決は右訴外人等に対して迄本件仮処分を取消しているけれども、右は本件仮処分取消事件の当事者でないものに対して迄裁判をしたものであつて違法である。(二)本件仮処分取消の基礎となつた東京地方裁判所昭和二十九年(モ)第八二三五号右仮処分に対する異議事件の第一審判決言渡当時同判決には未だ裁判官の署名捺印がなされておらず、従つて判決原本として完成していなかつたのであり、右言渡は原本に基ずいてなされたものでないから違法であつて効力のないものであり、従つてその有効になされたことを前提とする原判決も又不当のものである。(三)原判決は仮執行の宣言をした根拠としてその理由に於て民事訴訟法第百九十六条を適用する旨説示しているけれども同法条は財産権上の請求に関するものであるのに、之を仮処分取消の判決に適用したのは違法である。と述べ被控訴代理人に於て右仮処分異議事件の第一審判決言渡当時未だ判決原本に裁判官の署名捺印がされておらず、右言渡が原本に基ずいてなされなかつたことは否認する。と述べた外、原判決事実摘示と同一であるから之を引用する。
<立証省略>
理由
控訴人が被控訴人等外二名を債務者として東京地方裁判所に仮処分を申請し昭和二十七年八月六日に右申請を許容する趣旨の同裁判所昭和二十七年(ヨ)第三八〇〇号仮処分決定がなされたこと、被控訴人等が右仮処分決定に対し異議の申立をし、同事件が同裁判所昭和二十七年(モ)第八二三五号事件として審理された結果昭和二十九年六月三十日右仮処分決定中被控訴人等四名に対する部分は債権者たる控訴人が被控訴人等の為共同で金二百五十万円の追加保証を立てることを条件として認可する旨の判決が言渡されたこと、控訴人が右判決言渡の日から七日間に右判決所定の追加保証を立てなかつたことは当事者間に争のないところであつて、成立に争のない甲第一号証によれば前記東京地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第三八〇〇号仮処分決定の内容は控訴人をして債務者等の為共同で金十七万円の保証を立てさせて債務者等に山林の立入伐採の禁止及び木材の処分禁示を命ずる趣旨のものであることを認めることができる。而して仮処分を命ずる判決は他の一般の判決と異り仮執行の宣言をつけてなくとも確定を待たずして言渡と同時に当然に執行力を生ずるものであることは民事訴訟法第七百四十九条の規定に徴しても明白なところであるけれども仮処分を取消す判決は之と異りその確定前に於ては仮執行の宣言をつけてない限り執行力のないこと民事訴訟法第七百五十六条の二の規定に照らし明らかである。而して前記仮処分異議の判決は前記仮処分を条件を変更して認可したものではあるけれども、右条件を変更した限度に於て畢竟仮処分決定を取消したものと解すべきであり、成立に争のない乙第一号証(右判決正本)に徴すれば右判決には仮執行の宣言をつけてないことが認められ、又本件控訴人が昭和二十九年七月八日右判決に対し控訴し現に控訴審に繋属中であることは当事者間に争のないところであるから右判決は未だ確定していないことが明らかであり、従つて右判決は未だ執行力のないものであるから控訴人が前記の通り判決言渡後七日の期間内に追加保証を立てなかつた為に控訴人主張のように仮処分認可の条件が不成就と確定したものとなし難く、控訴人が右判決に対し控訴している以上右仮処分請求権を放棄する意思のないことが明らかであるから、右追加保証を立てなかつたことを以て仮処分請求権を放棄したもの又はその他右仮処分の必要を消滅させたものとすることもできない。然らば前記仮処分異議の判決が言渡されたところ控訴人が右判決所定の追加保証を言渡後七日間内に立てなかつたことを以て仮処分に準用される民事訴訟法第七百四十七条第一項にいわゆる事情の変更した場合に該当するものとなし難いから、之を以て右事情の変更とし前記仮処分の取消を求める被控訴人の本訴申立は爾余の判断を待たずして失当なるものであり、以上と異る見解の下に右申立を認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三百八十六条、第八十九条、第九十六条を適用して主文の通り判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)